授業中、井上ジュンのポケットの中で、ケータイがブルルルと震えた。 先生に見つからないように気を配りながらケータイの画面を確認すると、高原レナからのメールが届いていた。 メッセージを確認すると、「ひっさしぶり〜(^o^) 今日、学校終わったら会える?」と書かれていた。 ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!とジュンの耳に、自分の鼓動音が鳴り響く。 「せ、先生!スンマッセン!気分が悪いんで、保健室…つーか、今日は帰りますッ!」 カバンを小脇に抱えて、呼びとめる先生の声を振り切って、ジュンは教室を飛び出した。 ―― アホか!授業なんか受けてるバヤイちゃうねん!ダァホ! * レナが出先から自分が住んでいるマンション前まで戻ってくると、入口横の非常階段にジュンが座り込んでいた。 「どうしたの?学校は?」 ケータイをいじっていたジュンは顔を上げてレナの姿を認めるや否や、超低温保存されたマグロのような顔つきになった。 「夜まで待てなかったの?」 長い長い時間を隔ててようやく巡り合えた、恋い焦がれた女性。 ジュンの中に蓄積されてきた知識と経験は、この瞬間ゼロに帰した。 「あ、あの、ボク…」 「部屋、入ろっか」 「ハ、ハイ…」 現代に強制召喚された原始人のようになって、ジュンはレナの後ろをひょこひょこと歩いた。 * 童貞少年だったあの頃に戻ったかのような初々しいジュンの反応は、レナを大いに満足させた。 二人でシャワーを浴びながら、ボディシャンプーを付けた指でジュンの陰茎を少しコスっただけで、あっけなく1度目の射精。 その後、ベッドに移ってレナの陰茎をしゃぶりながら、自分の手でシゴいて射精。 シックスナインの体勢で射精。 レナの膣内で、3度の射精。 流石の絶倫少年も、クタクタになってしまった。 * 服をのろのろと身に着けながら、ジュンはおそるおそる聞いてみた。 「今度は、いつ会えますか?」 「んー。どうかなー?わかんない。連絡する」 レナはジュンの方を見ようともせず、指にマニキュアを塗っている。 「ボクは」 毎日でも会いたいですと言いたかったが、ジュンはその言葉を飲み込んだ。 ウザいと思われたくなかった。 「じゃ、帰ります」 「あ、待って。下まで送るから」 部屋を出て、二人きりのエレベーターの中で、ジュンはレナの体を抱きしめた。 「もう!甘えんぼサンだなー」 レナは優しくジュンをたしなめた。 「好きです」だとか、「今晩泊めて下さい」だとか、そんな言葉がめまぐるしくジュンの頭の中を駆け巡った。 だが、それを口にしてしまえばレナとの魔法の時間は永遠に訪れなくなってしまうように思えて、結局何も言えなかった。 家に辿り着いたジュンはレナとの行為を思い出しながら、手淫で2度、射精した。 * 「ちゅーワケなんすよ。分かります?オレの辛さ」 カフェ・ド・田中クニエで、立花ケイはジュンに愚痴を聞かされていた。 2杯めのホット・エスプレッソを音を立てて啜ってから、ケイは感慨深げに言った。 「まぁなー。そりゃオレだってついこの前までは、同じようなモンだったからなー」 「絶対オレの他にも相手いますよね。そー思いません?」 「そーかもな。いや、知らないケドさ」 「どーすりゃいいんすか?辛いんスよ。この愛を貫いていくのは。オレの性欲はどーすりゃいいんスか?」 ―― そんなチンコは、ちょんぎっちゃえ。 ジュンのおかげもあって、ユカとラブラブカップルになれた。 お礼を言いたいと思っているところへお呼びがかかったので、来てみれば。 かれこれ30分。もういい加減、聞き飽きた。 ケイはうんざりして、どんな口実でこの場を立ち去ろうかと考えていた。 「立花サン、助けて下さいよ」 「タスケル?助ける、って何を?」 ジュンはカップを持つケイの手に自分の手を重ねて、ニッコリ笑って言った。 「セックスさせて♪」 ヒクヒクと、ケイの瞼が痙攣した。 ゆっくりとした動作でジュンの手を取り、テーブルの上に置いて、ケイはハッキリと拒絶した。 「悪いケド、他を当たってくれヨ。じゃぁな」 レシートを手に立ちあがりかけたケイに投げかけられた、ジュンの恐ろしい言葉。 「いーんスかねぇ?ユカさんにオレとの関係、喋っちゃっても」 「!」 激烈な怒りに襲われて、ケイの視界が真っ赤に染まった。 「恐喝するの?」 「恐喝?そんな!違いますよ。取引です。フヒヒ」 おぞましい程の、ドスケベスマイル。 ―― 火に油を注いだらダメだ!冷静に対応しないと。この危機を回避する為の、ベストなセリフは何だ? ケイは自分の中に回答を求めたが、分からなかった。 「そこまで自分を貶めたいってんなら、ご勝手に」 未だかつて出会ったことのない強さの「自分に向けられた憎悪・激怒」をケイの眼力に感じて、ジュンは慌てて顔を伏せた。 ケイは静かに、店を出て行った。 一人席に残されたジュンは、しょんぼりとうなだれて、目の前にある飲みかけのアイスカフェを、ぼんやりと見つめ続けた。 |