放課後の、郷土研究部・部室。

神崎マドカは、股間に男性器を模した物体をぶら下げて、思考停止状態に陥っていた。

―― ガチャリ。

部室の隅にある、本来は清掃道具が収納されているロッカーのドアを開けて、一人の少女が出てきた。

井上ジュンに「シャベクリマシーン」、「チクリ魔」などと呼ばれている少女、真田トウコであった。

「逃げてったネ、井上くん」

「トーコ!なんでいるの?」

股間を手で隠しながら、マドカは顔を真っ赤にして叫んだ。

「気になったんだよ!上手くいくかどうか心配で、それで気がついたら、ロッカーの中にいたんだよ」

取り繕うように、誤魔化すように手を振り回しながら、トウコはマドカの方へ歩み寄っていく。

「ねぇ、このコト、言う?みんなに言う?」

慌ただしくスカートを穿きながら、マドカはトウコに尋ねた。

「言わないよ。私がおしゃべりになるのは、マドちゃんにだけだよ」

「ああ。うん。そうだね。…ゴメンね。心配させちゃって」

目にいっぱいの涙を浮かべて、マドカは声を震わせた。

トウコは、マドカの手をそっと握って、慰めるように言った。

「ねぇ、もう止めよ?井上くんは、マドちゃんを傷付けるだけじゃん」

「うん。でも」

「知ってるよ。最初から見てたから、知ってるよ。でも、変わっちゃったモン。井上くん」

「トーコ、ずっと励ましてくれたもんね」

マドカの脳裏に、幾つかの場面が思い浮かんでは消えていく。

「マドちゃんの涙、もう見たくないよ」

トウコはマドカの体をそっと抱き締めて、耳元で囁いた。

「ひぅ!」

性感帯のひとつである耳を刺激されて、マドカの背中に電流が流れた。

「傍にいるよ。私、ずっとマドちゃんの傍にいるよ」

耳たぶを甘噛みされて、体中の力が抜けていく。

「ダメぇ。耳、ダメぇ」

「好き。マドちゃん、大好き!」

トウコに髪を撫でながら口づけされても、マドカは拒まなかった。

―― ようやく、ようやく、マドちゃんが、私のものになるよ!

トウコは、心の中で小躍りした。



長い道のりであった。

同じクラスになったマドカに、一目惚れしたトウコ。

内気な少女が初めて勇気を出して、マドカに話しかけた。

なんとか友達にはなれたものの、恋愛対象として見てもらうにはどうしたものかと日々、悶々としていた。

そうこうするうち、マドカがジュンに惹かれているとの報告を本人の口から聞かされて、ショックを受けた。

嫉妬に身を焦がして、ジュンを観察していたトウコ。

その執念は実を結ぶ。

ジュンが高原レナと関係をもった事を突き止め、マドカがジュンを嫌いになるよう仕向ける。

ところがトウコの思惑通りにいかず、マドカはレナに戦いを挑み、たらしこまれてしまった。

ジュンとレナの間で、揺れるマドカ。

悩めるマドカのあれやこれやの話を聞きながら、トウコは機を窺っていた。

ジュンと同じ塾に通って、ジュンを監視を強化するトウコ。

ジュンを見つめる篠田カナメの熱い視線を見つけて、トウコは一計を案じた。

カナメをけしかけて、ジュンと深い仲にさせる。

思惑通りとなり、さっそくマドカにそのことを伝えるトウコ。

マドカの顔は曇ったが、トウコは嬉しかった。

自分に運が向いて来ていると感じた。

ある日、辛そうにお尻をさすりながら廊下を歩くジュンを見た時、遂に最大の好機が訪れたと思った。

「井上くんはオチンチンへの愛が高じて、ついにお尻に入れられるのが好きになったらしいよ」

トウコはマドカに耳打ちし、「コレ使って」と用意しておいた緑色に光るモノを差し出した。

そして、現在に至る。

マドカを抱きしめて、トウコは無上の喜びに浸っていた。

―― 流されやすいマドちゃんは、もうこの流れには逆らえない。もう、マドちゃんは、誰にも渡さない!

「トーコ、私、女の子なんだけど、その…い、いいの?」

「うん。いいの。マドちゃんは、イヤ?」

「えっ?べっ別に、イヤってほどじゃないっていうか。そこまでじゃないっていうか」

「ホント?うれしい!」

イヤじゃない→受け入れてもらえた。

トウコが言った「うれしい」には、自分がそう理解したのだという意味が込められていた。

間髪入れぬ、耳たぶへの甘噛み攻撃。

「にゃあ〜ん。それ、ダメぇ〜」

マドカの手を離れた緑色の物体が、鈍い光を放ちながら、床へと落下していった。



◎ 真田トウコと飼い猫のコマドカ




フタナリ女と少年少女



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