ある日の放課後、深田奈津美が久しぶりに文芸部の部室に行ってみると、そこには後輩の古畑茉莉だけがいた。
奈津美を見るなり、不機嫌そうな顔をして再び読んでいた本に視線を戻す茉莉。
「なんか最近、私って、マツリンに避けられてる?」
隣の席に座って、奈津美はしばらく間を置いた後、茉莉にそう尋ねてみた。

「だあってぇ〜!そりわぁ〜」
茉莉は、言葉を詰まらせた。
「?」
「奈津美先輩、最近、宮野先輩とばっかし仲良くしてて、マツリのコト、ちっともかまってくれないでしゅモン!」
確かに、その通りだった。
奈津美は肉欲解消の為、宮野春花との性行為に没頭し、部活動が疎かになっていた。
少し前までは、茉莉に対しては、じゃれ合うように接していた。
「私たち、ナツミとマツリで、百合姉妹なんだもんねー」
「お姉しゃま〜。ふにー」
などと、周りの連中にふざけて見せたりしていた。
「奈津美先輩が他の誰かを好きになってても、一緒にいられるのが部活の時だけでも、マツリ、我慢できたんでしゅのにぃ」
「…!」
― 他の誰かって、志穂のこと?
この子ったら、志穂とのこと、今も私が志穂を好きなこと、知ってるのかしら?

「最近、部にだって顔を出さにゃいし、ポッと出の新人に、奈津美先輩を奪われたみたいに思えて」
「…」
「もう、今までみたいな関係じゃ、イヤでしゅ!」
「…」
「マツリは、先輩のこと…奈津美しゃまのコト、恋してます。しゅきです。ダイしゅきにゃのデス!」
茉莉は声を震わせながらそれだけ言うと、俯いて黙ってしまった。
奈津美の答えを待っているのだろう。
喋り方が変わっているので分かりにくいが、真剣であるのを奈津美は理解していた。
― この展開も、春花ちゃんの言う、私のニオイが強まっている所為なの?

奈津美は一生懸命告白してくれた茉莉を、戸惑いながらもいじらしく思った。
でも…。
「マツリンがそう思ってくれていて、嬉しいよ。でも私、普通の女の子じゃないから、サ」
「?それって、どういうことでしゅか?」
「この学校って、少しだけ、混ざってるじゃない。半陰陽」
「ふに!」
「そうなの。私も、その中の一人なの」
クラスに一人か二人の割合で、半陰陽、フタナリの生徒が混ざっている。
だが、誰がそうであるのかは公表されていなかった。
時として、イジメや差別の対象になる為である。
初めて日高志穂に体の秘密を知られて肉体関係を強要された時は、深刻に悩んだものだった。
まもなく二人は、互いに愛し合う関係になったのだが…。
幸せな時間は、長くは続かなかった。



今、奈津美が茉莉に秘密を明かしたのは、本気の告白に対して誠意を持って応えたいと思ったからである。
「ふにに!でも大丈夫でしゅ!関係ないでしゅ!女の子でも、そうじゃなくても、マツリは、奈津美おねぇしゃまと〜」
「…」
「キスしたり、もっと、エロスなコトだって、して欲しいのでしゅ」
緊張と興奮で、茉莉は汗まみれになって震えている。
「知ってるんでしょ?私、最近、宮野さんと」
「フタマタでも、いいでしゅよ」
「えぇ〜?」
不釣合いな単語が発せられて、奈津美は驚いた。
「耐えましゅ!マツリは、耐える女になるでしゅ!奈津美おねぇしゃまじゃなきゃ、ダメなのでしゅ!」
茉莉は、奈津美に抱きついた。
「おねぇしゃまー!」
― ちっちゃなヒヨコみたいなこの子が、こんなに勇気を振り絞って…。
奈津美は、茉莉の頭を撫でてやりながら、下腹部が徐々に隆起していくのを感じていた。
エロスなどと口では言うが、茉莉は、どこまでの行為を想像しているのだろうか?
裸で抱き合う程度なのだろうか?
しかし、自分の中に芽生えてしまったこの淫らな欲望の火は、もう消せやしない。
この猛りを、幼く可憐な茉莉の中に埋めたいと奈津美は思った。
「ぶにゅ〜」
「?どうかした?」
突然、茉莉が変な声を出したので奈津美は驚いた。
「なななんでもないでしゅよ?」
茉莉には、興奮するとオシッコを漏らす癖がある。
この時、茉莉は自分が漏らしてしまっていることに気付いていた。
― ヤバイでしゅ。このままでは。
茉莉は焦っていた。
― このまま脱がされたら、おねぇしゃまにバレるでしゅよ。
もうひとつ、茉莉には気付いている事があった。
― おねぇしゃまの大事なトコロが、カタくなってるでしゅ。
おねぇしゃまは、マツリに欲情してるでしゅ!



茉莉の心の中で、天秤が揺れていた。
このまま続けたいし。
でも、漏らしたことを知られたくはないし…。
茉莉が迷ううちにも、奈津美の行為は進んでいく。
が、愛撫を続けても照れくさいのか恐がっているのか、茉莉は困ったように笑ってばかりで、ちっともエロスな雰囲気にならず。
そのうちに奈津美は、すっかり萎えてしまった。
― やっぱり、まだこの子には無理だよね。
「おねぇしゃま、ゴメンナサイ」
消え入りそうな声で、茉莉は謝った。
「いいのよ」
少しガッカリしながら頬に口づけしてやると、茉莉は忽ち嬉しくなって、奈津美に抱きついた。
「おねえしゃま、いっしょに帰るでしゅー♪」
二人は手を繋いで帰っていった。
茉莉と別れた後、ケータイで春花に電話をする奈津美であった。
その夜。
自分の部屋で今日の出来事を思い返してはしゃぐ茉莉は、母親に叱られてオシッコを漏らした。




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